驚くべき山口君の新事業②

世界の高齢者問題は思いの外、根が深い。生きる目的を失い惰性で生きる、人の最後の数年間というのは、一体全体どんな時間なのだろうか。私にはわからない。正直言うと、解ろうともしなかった。全ての人が避けることのできない時間、くらいにしか考えていなかった。

しかし山口君は違う。

東京の娼年としてたくさんの人の人生に関わり、一見何の悩みもなさそうな富裕層の人たちにも、聞いたらあっと驚くような苦悩があると知り、それら全てを「乗り越えるべき課題」と変換し「一緒に乗り越えていくことで」解を導いてきた。

キャリア女性の苦しみもたくさん知ったことだろう。私も山口君の前で何度か号泣した。彼が一貫して私たちに示した態度は「一緒に乗り越えよう」だった。言葉にすると何の変哲もないように思われるかもしれないが、当事者にすると両手を併せ拝みたくなる、それくらいありがたい姿勢なのだ。

高齢者介護はおむつを変えたり食事の介助をすることだけでは無い。自立した生活ができなくなる直前の数年間をいかに過ごすかで、その人の人生の最終的な「色」が決定してしまうのだ。

驚かれるかもしれないが、私たち医師は高齢の患者から「早く死にたい」「殺してほしい」「早くお迎えが来てほしい、後生だから」と何度聞かされたかわからない。自力で自分の思うように動けなくなるというのはそれ程の事態なのである。

山口君はそこに挑もうとしている。

エヴェレストよりも高く厳しい山かもしれない。助けるつもりが自分の命を落とすことになるかもしれない。しかし彼は抜群のアイデンティティと健全に成熟した自己肯定感の持ち主、人類の目の前に立ちはだかる「解くべき難問」から逃げるような男の子ではないのだ。