驚くべき山口君の新事業①

山口君が新作を発表した。「看取り士」という仕事である。対象は高齢者。人生最後の数年を「山口君と一緒にひとつ目標を決め、それをふたりで必ず達成する」というサービスである。精神科医の私が脱帽する彼の事業感は天才というより他にない。

加齢の何が怖いか。

これまで自分一人でできていたことがだんだんできなくなり、関わっていた社会から潮が引くように静かに離れていき、気づいたら周りに誰もいない、文字通りの孤独となり「後は死ぬだけ」という状況を、人は異様に怖がるものなのだ。

死ぬ以外、他に目標も何もない状況が、死ぬこと自体への恐怖を凌駕する。山口君はここに目をつけたのだ。恐ろしい。本当に恐ろしいセンスだ。

彼が東京の娼年として初めて世にデビューした時、最初に彼を買ってくれたのは70歳手前の男性だった。その男性は、足腰が急に弱ってきたため、大好きな銭湯や温泉に自由に行けなくなったのにとても不自由を感じ、一緒に行ってくれたり、自宅の風呂に入るときにも見張り(番人)をしてくれる、そういう男の子を探されていたと記憶している。

結論を先に言えば、山口君は最初のその仕事で大成功を収めた。

それはどういうことかというと、その男性の真のニーズを正確に導きだしたのである。

その男性が本当に困っていたのは「老いへの不安」だった。それを中核とした周辺症状が「風呂や銭湯の件」だったというわけだ。山口君は、その男性と丁寧に関わることで顧客の真のニーズを引き摺り出すことに成功したのである。マーケティングの基本中の基本を忠実に行っただけだと山口君は謙遜していたが。

あの時、その男性からいただいた「お手紙」を読み、私は不覚にも涙を流した。それは何故かと言うと、

山口君のおかげで、この年になっても「もっと生きていたい」と初めて思うことが出来ました。

と書かれていたからだ。それを思い出すと、今こうしてこの文章をタイピングしている文字すら涙で滲んでくる。山口君は本当にすごい男の子なのだ。