恋愛で身を滅ぼす女③

しかし、一応父に相談してみることにした。というのは、相談したらどういう回答が返ってくるか、する前にわかっていたからだ。

他人のプライバシーに首を突っ込むんじゃない。

必ずそう言われると判っていた。そしてやっぱりそう言われた。確かにそうよね。今の私でも相談されればそう答える。恋愛で自滅しようが大学に落ちようが、それはその人の勝手である。人は必ず、自力で人生を生き抜くのに必要な失敗経験をしなければならない時がある。その時の彼女はまさにその真っ最中だったのだ。

介入するのはやめよう。私は心に決めた。そうだ。失敗こそ学習に必要な体験なんだ。それを奪おうなんて、私もどうかしていた。

そう心に決めると、すっと気持ちが楽になった。あれ、なんか調子いい。勉強も捗る。実はその時、私も彼女の愛の嵐に巻き込まれていたのだと気づいた。

結局、サキは一浪した。

でも、今覚えば、一浪なんて、どうってことないものである。それより、一浪するほど価値のある体験をその時したかどうか。そこが重要だ。恋愛をするには、健全な自己肯定感の成熟が必要であることを、後に私はサキと話し合えるようになった。彼女は己の自己肯定感の未熟さに気づき、それこそそっちの方を優先する勢いでラストスパートを図った。というのは、自己肯定感の成熟のタイムリミットは思春期の終わりだからである。

自己肯定感の成熟に「先ず」必要なのは、毎日必ずをひたすら継続することである。とにかく毎日。そして毎日が自然になってきたらだんだんと負荷を上げていく。ちょっと無理かも。と思えるくらいの負荷をじりっじりッとあげていくのだ。

そして「次に」必要なのは、そもそも健全な成熟を遂げた自己肯定感の持ち主との人間関係を深めることである。私は相撲部の彼に頼んで、ともだちを紹介してもらい、厳選に厳選を重ね、前田君という男の子を推薦した。これは恋愛相手としてではなく、あくまで自己肯定感の健全な成熟のお手伝いという目的で、と建前を説明したが、実は良い関係が築けそうな男の子だと私が確信したというのもある。とんだお節介なのだが。